Chapter 1
”今”を形作る“過去”の物語
ツナガル
みなさんにとって見慣れた風景も、慣れ親しんだ食文化も、実は何億年、何千万年にもおよぶ大地の歴史と深く関わっています。
目の前に広がる"今"が、どのように"過去"の地球と"ツナガル"のかをひもといてみましょう。
暮らしとツナガル
日本は世界でも有数の火山の多い島国です。火山の噴火は、私たちの暮らしを脅かす災害としての面を持っていますが、一方で、私たちの暮らしを支える恵みの面も持ち合わせています。桜島(鹿児島県)では、火山の噴火で流れ出た溶岩や火山灰が水はけのよい斜面を作り出しており、桜島大根や桜島小みかんなどの名産品を育んでいます。
規模の大きな火山活動が起こると、火山の上の大地が陥没することがあります。このようにしてできた凹地をカルデラといいます。洞爺湖(北海道)や芦ノ湖(神奈川県)は、凹地に水が溜まったカルデラ湖で、観光や温泉地としても活用されています。
また、地震によって生まれる地形の1つが海成段丘です。室戸(高知県)は、数百年ごとの南海地震によって、千年あたり約2mという速さで大地が盛り上がっています。海成段丘では、日当たりや水はけが良いため、サツマイモやナスなどの農作地として利用されています。
このように、“過去” の地球の活動によって“今” の地域の姿が生み出され、ヒトはその地形を様々に活用しています。
生き物とツナガル
生き物の住みかは、どこでもいいという訳にはいきません。生き物それぞれに得意/不得意があり、地形をはじめ、周りの環境に応じて住み分けています。また、岩石の違いが土壌の性質の違いをもたらしており、植物の生育にも深く関係しています。
例えば、南アルプス(長野県)や白山(石川県)などの高山では、大量の積雪や強力な風などにより過酷な自然環境が生まれます。この環境を生き抜ける動物や植物はとても限られており、高山では森林が形成されることもまれで、草も生えない荒地も少なくありません。
鳥海山(秋田県/山形県)や栗駒山(宮城県/秋田県/岩手県)など東北日本では、「森の女王」とも呼ばれるブナを中心とする森林が広く見られます。ブナ林は、高山帯よりも標高の低い山地の多雪地帯を中心に広がっており、多くの動植物に雪や風から守られた住みかを提供しています。
このように、“過去” の地球の活動が生み出した地形や気候によって、“今” の生き物は住み分けています。
文化とツナガル
私たちの身近にあるお祭りや神事、産業には、大地の活動と深いつながりがあります。
日本には、火山の噴火を鎮めることや、雨乞いといった、自然に対する信仰や文化が今なお多く残されています。また、狭い国土ながら高い山や急な川が多い日本では、現在のようなトンネルや橋などが整備されるまで、周辺の地区との行き来が難しかったことから、地区ごとに多様な文化が育まれてきました。
阿蘇カルデラ(熊本県)の草原は、火山から噴出した火砕流や火山灰がつくりだしました。草原が広がるこの環境は「 阿蘇のあか牛」の放牧に生かされています。度重なる噴火だけでなく、採草や野焼きなどの人の手を加えることで維持されてきました。野焼きは、枯れ草の除去、森林化の抑制、牛馬の餌の生長促進、さらには火災防止などの効果があります。
このように、“過去” の地球の活動に、“今” を生きる私たちの知恵が加わることで、多様な文化が形成されているのです。